畑から(畑の露地裏)   bP6

 

畑の露地裏 I

 10年ぶりに寒い夏です。すぐに10年の歳月が頭に浮かぶのには理由があります。それは、私の娘が10歳だからです。娘の名前は朱夏(あやか)といいます。予定日になっても生まれず、畑も寒空。今年のように、遅い梅雨明けを、まだかまだかと待っていました。ようやく7月も終わりになって生まれましたが、畑は梅雨のままでした。どうかまぶしい夏、真っ赤な夏になってくれないものかという思いが、子どもの名前にもなりました。
 さて、ここまで天気がおかしいと、野菜の様子も変ですね。本来なら夏の暑さにじっと耐えているはずのネギなどはイキイキとしているでしょうし、秋キャベツの早いもの(9月下旬収穫予定)などは、すでに葉が巻きはじめましたから、来月上旬には収穫できるかもしれませんね。
 そのような畑の様子を見ているからか、季節感がずれてしまった方が見受けられます。先週には、レタスやハクサイの苗を定植している方までいらっしゃいました。それでも、最高気温が25℃の冷夏であれば、とれます。多分、とれちゃいます! 教科書には書いてありませんが、収穫できるはずです。
 ただ、それを正当な(?)農業と思ってはいけません。明らかに間違ってとれるのです。基本どおりに作業している方が当たり前にとれず、逆にこういうミスが功を奏するのは、ビギナーズ・ラックというのでしょうか? つまり、今年とれた方の来年は…? そう、同じことをしても来年はうまくいかないのですョ。普通の年なら失敗します。にもかかわらず、たまたまうまくいくと味をしめてしまいます。
 こういうギャンブル的なことを好む農家も結構多いようです。私は競馬の予想屋ではありませんし、ギャンブルで作物を作っているわけではないので、大穴を狙うより堅実な作付けを指導いたします。

 百姓の言葉に「春の七日、秋の一日」というのがあります。理屈は次のとおりです。
 野菜は、種まき以後の日々の気温の総和(積算温度)に比例して生育します。このとき、「温度が上がる」=「日照がある」とみなします。
 たとえば、春の種まきで考えてみましょう。3月下旬に、予定より1週間ずらして大根の種をまくものとします。種をまいた方は「1週間ずらした」と思っていますが、残念なことに、ゴール(収穫時)はほとんど変わりません。というのも、3月下旬の1週間は、ややもすると毎日の最高気温が10℃前後だったりします。ところが、ゴールとなる6月には気温が30℃になっていたりします。つまり種まきの時の1日の差はゴールの頃には3分の1日の差になってしまいます。種まき時に1週間あった差も、収穫時には2日の差に減ってしまうのです(本当のことを言うと、もっと短くなります)。もっとも、ほとんどのガルテナーは週に1回しか見えないのですから、ここで生じた2日の差をお気づきになる方はいらっしゃらないでしょう。
 しかし、これとは逆に秋の種まきはタイミングが微妙です。少し勇み足をすると、暑いから早すぎるということになりますし、「来週までには種を調達しよう」などとノンキにかまえていると、“大根”が“中根”で止まったり“小根”で終わったりします。なぜなら、ゴールとなる真冬は寒すぎて生育できないのですから。秋の種まきでは、1週間の遅れが取り返しのつかないものになることを知っておいてください。
 ここで大事なことが計画遂行力です。夏までに畑仕事の“いろは”をおぼえられたら、今度は準備と計画がものを言います。秋の農作業は、それを確実に遂行することのみです。
 まあ、頭ではわかっていても、そうそう実行できるものではありませんよね。特に1年生は仕方ありません。ただ、あまり皆さんの畑の出来が悪いと、笠間クラインガルテンへの足が必ず遠のきます。指導員という私の立場上、観客動員数が減少すると上司から評価されません(笑)。やはり、いつお見えになっても、皆さんの畑に美味しくて新鮮な野菜があってほしいものです。
 本年の種まきも、残すところ1か月あまり。皆さん。計画は大丈夫ですか?


[斎藤典保]