畑から(畑の露地裏)   bP5

 

畑の露地裏 H

 「男性的梅雨」「女性的梅雨」という言葉を聞いたことがあります。前者は大雨と梅雨晴れを繰り返すことを指し、後者は“じめじめ”“しとしと”という空模様を指したもののようですが(こんな表現は性差別ですね)、とにかく今年は天気が悪い。
 ここ笠間クラインガルテンでは、降水量はそれほど多くないのですが、極端な日照不足が続いています。当然のことながら、夏野菜の生育にも影響が出てきました。
 一番の被害者は皆さんの大好きな“トマト”です。カビや細菌による病気が主なものです。カビや細菌は、高温多湿で日光がないときに大暴れします。これらのバイキン(少々非科学的ですが)は、どこにでも普通にいるものです。自然相手の仕事にはこういう年もあることを忘れないでください。

 ちょうど10年前になりますが、米がないといって大騒ぎをした年がありました。何年かに一度は、不作の年があります。日本の場合はたいてい田の近くに川がありますから、日本全体で見れば凶作の原因となるのは日照りではなく冷害です。水はあるところから捜してくればいいので工面のしようがありますが、お日様を隠す雲を払うことはできないのです。
 このような年には、春野菜が延命して夏野菜の生育障害、とりわけ病害が多発します。上述のトマトのように、おもな病害はカビや細菌によるものです。高温多湿がいけないのです。キャベツやレタスが溶けるように腐ることも同じ原因です。
 ですから、水はけがよくなるように溝をつけたり、周囲の草取りをして株元がむれないようにすることなどが、わずかですが植物を上手に育てるコツになります。僅差は大差です。積み重なると大きなものになります。
 私もかつて、偶然にキャベツの畝を高くしていたために排水がよくなり、株元からの腐敗が遅れたことがあります。しかし、運悪くカラ梅雨の年であったら、逆の結果になっていたことでしょう。
 クラインガルテンの畑を見ても、生育に微妙な差が生じています。同じ苗をそれほど大差なく管理しているのに、早くから病気に負けたものとそうでないものとがあります。いったい、何が違うのでしょうか? 残念ながら確信をもってこれだと言える理由はありません。

 しかしながら、一つひとつ見ていくと、わずかながら気になることが見つかります。例としてトマトを取り上げましょう。
 前提条件として、生育不良の原因をカビとバクテリア(バイキン)と仮定します。講習会でも再三お話ししているように、これらの原因菌は水を介して感染しますから、植物に水が直接当たらないようにすることが大切です。それゆえ、お気づきの方も多いと思いますが、露地に植えたものより雨を避ける天井(ビニール)がある所に植えたほうが、たとえ病気を発症したとしても時間が遅れています。
 次に、風通しの問題です。A棟のメインストリート沿いのトマトは軒並み玉砕しています。ところが、南側が開けた畑では病気の発症が遅くなりました。
 さらに、肥やしの問題です。トマトは、ヒトでいうところの“生活習慣病”になりやすいため、あまり多くの肥料を与えません。日頃からよく話すのですが、肥やしが足りなければ追肥をすればいいのです。しかし、たくさん与えすぎたら取り除くことはできません。
 これは、風通しとも関連があるのですが、トマトの周りの状況を考えて下さい。風通しは、地形だけでなく、周りを取り囲む他の植物や庭木に影響されます。肥やしも、前作の残りが影響します。また畑が斜面の場合は上方にある野菜の肥やしのことまで考慮してください(雨が降れば、雨水に溶けた肥やしの成分は下に流れ出しますから)。

 トマトの場合、慣行的には殺菌剤を常用します。病気になってからでは手遅れですから、予防薬として使用します。つまり、病状が出る前にとりあえず撒布するのです。梅雨時は薬剤が雨で流されますから、雨の合間にまた予防のために撒きます。実情を知らない方から見ると、いつも薬剤を撒いているように見えます。
 では、こうした薬剤を使用しないでトマトをつくるにはどうするかというと、大きな雨避けハウスに、ポツン、ポツンと植えるのです。決して欲張ってたくさん植えません。
 クラインガルテンで多くの方が利用されている小型ビニールハウス(1坪)では、理想を言えば1株。譲っても2株です。3株植えたいと言われるなら目をつぶろう。4株、5株…なんて欲張られたら、「バカ!」と言いたくなります(失敬)。
 そんなに混み合って植えられたらどうなるでしょうか。伸びてきた両端の株はすぐにハウスからはみ出し、もはや雨避け栽培とは言えません。第一、風通しが悪くなります。株同士が重なり合って、どの株かがいったん病気感染したら、全部に感染するのは時間の問題です。トマトを植えられる前に、こうしたリスクまで考えてください。

 さて、トマトの栽培方法に、芽欠きという作業があります。しかし私は、低温で雨が続き始めた6月上旬からこの作業を行っていません。最大の理由は、バイキンが感染する傷口をあえて作らないためです。ちょうどジャガイモの収穫期にあたり、何かとジャガイモに接することが増えるため、ジャガイモのもつバイキンを感染させないことが重要です。
 最悪の場合はトマトをあきらめてもいいと割り切り、トマトハウスには一切近寄りませんでした。それでも、花の房が3〜4段ありましたから、私の判断が正しければ、それだけは収穫できるわけです。結果的に私の判断は正しく、7月27日現在、主だった病害は出ていません。
 私以外にも、A−4棟とA−13棟の、大きなハウスを作られた方は、問題なくトマトが生育しています。

 また、例外ですがB−4棟も病気が出ていません。これは、ハウスを完全に密封してあるためです。今年は、日照がありませんから結果的によかったのです。いくら梅雨といっても、たいていは毎日雨が降りつづくわけではないので、密封して1週間放置したらアブラムシの巣窟となり、別の病害を誘発しかねません。しかしこのケースでは、高畝にしたために風通しがよくなってキャベツが腐敗しなかった私の例と同じく運がよかったのです。
 適当に植えてもとれるときはとれます。「プッ」とはき捨てた種からだって、とれるときはとれます。しかしそれは、運がよかっただけなのです。百姓仕事も、アレコレ考え出すときりがありません。
 しかし、より自然にやさしい農業を行う場合、いろいろなことに気配りする必要があります。その注意点が的を得ていて対応がしっかりできたときにはきちんと成果が出ますが、的を得ていないか、または対応が適切でないと失敗することになります。百姓はけっこう難しいものです。
 大事なことに優先順位をつけて考えてください。モノの本にはさまざまなことが書かれていますが、自分のおかれた環境や技量に照らして、適切なことを選ばないと何にもなりません。トマトと環境と自分を、調和のとれた関係に置けるようになると、栽培が容易に感じられるはずです。そのとき、もちろん結果もついてくるはずです。



[斎藤典保]