畑から(畑の露地裏)   bP4

 

畑の露地裏 G “ハッピーバースデー梅雨”

 日本には四季がある。国外といえばJALパックの旗の後しか歩いたことがない私には、世界のことはわからない。でも、日本の四季は綺麗だと思う。
 また、四季に加えて夏の前後には長雨の季節がある。その片方の梅雨は、たいへん劇的な季節であると思う。夏を思わせる強い日差しが出る5月からそのまま一足飛びに夏にならず、拍子抜けしたようなしょぼしょぼの雨に季節になるのだから。
 入梅の時期は毎年違うものだが、慣れとは妙なもので、こうやって自然相手に暮らしていると、じきにやって来る嫌な季節の兆候のようなものを受け止められるようになる。そして、まさに劇的なのが梅雨明けである。昨日までの天気とは打って変わって、雷鳴とともに突然やって来る。なにやら新しいページが音を立てて開くような気がするのは私だけだろうか? 私にとって梅雨明けは、新たな季節の誕生のように感じられるのだ。
 この梅雨どき、百姓にとってはうまくしたものでそれなりに時間ができる(おそらく畑仕事に慣れていない方にとっては反対だろうと思うが…)。その理由として、種を蒔いたり苗を植えたりといった仕事が少ないことがまず挙げられる。
 関東では5月中におおよそ夏までの仕事が終わってしまう。6・7月には草取りもあるにはあるが、この時期の畑にはもう年越しの春草はない。どれも少し前に発芽したばかりのかわいい夏草ばかりだ。
 梅雨時期の仕事をあえてさがすなら、ミツバの種蒔きと定植、ジャガイモの堀上げ、大豆の種蒔き、ネギの伏せかえくらいだろうか。どれをとっても、たいしたことはない。
 梅雨に行うことは、前もって準備だけしておけばいいのである。あとは天気しだいなのだから…。もっとも、準備といったところで、5月までに植えたり蒔いたりした残りの空き畑に蒔くだけなのだ。そのスペースも考える余地も、極端に少なくなることがおわかりいただけるだろう。
 そうだ。皆さんにこの話はしただろうか? 畑は4月1日にすべて使うものではないことを…。だいたいの目安として家庭菜園では、5月20日までに全体の3割を使い、7月20日(関東での梅雨明けの平年日)までに別の3割を使う。残りの4割は秋冬用に残しておく。この秋冬用地は、8月の盆のころから使用する。
 梅雨明けから旧盆に収穫されるジャガイモの用地は、4割の空き地と隣り合わせになっていることが望ましい。そうなっていれば、ジャガイモの収穫後に一まとまりの大きな空間が確保できるからだ。そのほうが8月以降の作業はしやすくなる。ところがこの4割が飛び地になって、空き地の間に生育期間の長い作物が入ってしまうと、使い勝手がすこぶる悪い。
 このように効率的な空間の使いまわしが理解でき、実行できるようになるには、かなりの経験が必要である。ガルテナーの中にはすでにこれが上手にできている方もいる。これがピタリと計画にはまった時には、おのずと作物も上手にできているものである。その達成感を私は楽しんでいる。しかしこれは意外にむずかしいことなのである。
 4割も空いている畑を見ると、皆さんは「夏まで遊ばせておくにはもったいない」と思われるかもしれない。特に夏野菜は上に伸びるため、使用面積が少なくていい。だが、キャベツ・白菜・ホウレンソウは畑面積がそのまま収穫量につながるのだし、収穫する期間も長い。当然、夏野菜に比べて多くの面積を使うことになるのだ。秋冬野菜のために広い空間があるにこしたことはない。
 ただし、畑は生き物。酷使は禁物であることを忘れないでいただきたい。

 とにかく今は雨の多い季節。貴重な梅雨の晴れ間は、ぜひ有効に使ってほしい。先に挙げたジャガイモ以外にもニンニクやタマネギを掘りあげる。こうした仕事は天気のいい日にやること。一般論だが、貯蔵物の収穫は、晴天の仕事である。
 ただし、ジャガイモは初夏に日差しに30分も当てるとすぐに色が変化し、緑から黒ずみになる。色がつくと苦味が出るので注意していただきたい。掘るなら夕方にかけて掘ること。早朝掘って日中一服しないこと(そんなことをすると、夕方には緑の芋になってしまう)。
 また、ジャガイモは手で丁寧に掘ること。せっかくの収穫物を鍬やスコップで傷つけてはもったいない。品種にもよるが、新ジャガはそれ程株元から離れたところにはないはずだ。
 さらに念のためにいうと、手掘りとは、あくまで「手で掘る」ということ。スコップを手にもって掘ることは手掘りとはいわない。それはスコップ掘りというのである。
 収穫したジャガイモは、寝かせた飼料袋の中に平たく並べ、数日から1週間程度は日陰で乾燥させるのがよい。こうして乾燥させたものは比較的長く保存できるはずである。もっとも、管理がよくないと発芽してしまってまずくなるので、なるべく早く食べきることをお勧めしたい。


[斎藤典保]