畑から(畑の露地裏)   12

’03.04.19
 

畑の露地裏 E              

〜新入生〜

 新学期が始まる。明日はクラインガルテンの入村式だ。何故か新しい入居者を迎えるのが年々楽しく、また待ち遠しい。家庭の事情や仕事の関係で退村される方がいらっしゃるが、不思議なことに今でもその数を上回る応募がある。前回、前々回と面接を行うたびに素敵な方がお見えになった。失礼、面接を行わなかった初回だって、単に先に抽選に当たっただけではない。大変素敵な方ばかりであることは言うまでもない。
 さて、今年の新入生もまた、やはりみな新入生顔をしている。まず、真新しい長靴がとても似合わない。中にはサイズが合っていないのではないかと思わせるような方もいる。これが一年間畑仕事に精を出すと、土着民として見間違うほどになる。それは男性ばかりのことではない。都会生活では考えられない格好で野道を闊歩される奥様の中には、モンペに甚平、はたまた肩から取れかかった膏薬など覗かせると、どこから見たって道を尋ねたくなる風体だ。貫禄十分になるから不思議だ。
 話を元に戻そう。新入生のそんな外見にもう一つ新入生たる特徴を加えたい。それは、必ず片手にジョウロを持っていることだ。「絶対」をつけても言い過ぎではない。必ず持っている。私が執拗に述べる理由が知りたい方はバックナンバーを見ていただきたい(まだ3、4回分しかないので全部見てほしい)。また、万能鍬を振り回しバックする姿は、ドリフのコントを思わせる。当人は本気なのだから笑っては失礼なのだが、土を掘り返しながらバックしたら、自分の股の下に掘り返した土がどんどん山のようになる事は不思議に思ってほしい。季節感、タネの一袋まき、カンフル剤のように思われている木酢液など、今年もまたくり返し説明しなければならない。

 いつものことだが、この施設を訪れる方たちに何を伝えればいいのか、今年も新入生を眺めながら改めて考えました。私の結論は、口に入る食べ物を“自分の手で作る”ことを中心に置いた食文化を、体験を通して再認識していただくことであると考えます。自給自足という考えではありません。なぜなら、体験をすれば100%自給がいかに不可能であるかがすぐにわかるからです。そのようなことを、机上論ではなく現状を知ることで理解いただきたいから、まず体験してほしいのです。また、農業者の養成ではありません。多くの人にとっては、一度体験すればよいものです。改めて気が付けばよいことですから。定年帰農や田舎暮らしと“ブーム”になると幹から脱線した枝葉ばかりに日が当たり、本題が必ずおろそかになります。私の考える食文化など特別なのもではありません。少し前の日本のどこにでもあった生活を意識しているだけです。ただ、すべての中心に農耕が存在し、わずかな余裕の中から贅が生まれる。そんなことを現代版に焼き直して楽しみたいのです。主旨からすると、“楽しむ”では表現が正しくないかもしれませんが、個人的には“楽しむ”というのがいちばん近い表現だと思います。
 クラインガルテン栽培クラブの活動も、地元の陶芸作家の協力を得て、わずかな贅を楽しむ“野のグルメ”コーナーも充実してきました。そろそろ通信講座の方も開設準備です。横枝ばかりが突出してはいけませんが、楽しみがないと張り合いがないことも事実です。今後は外部にも門戸を開放し、クラインガルテン予備軍の裾野拡大を図ろうと思います。
 先日、優等生のガルテナーから、売り物としても遜色のないダイコンを見せていただきました。夏野菜の苗も大きくなってきました。梅雨の前1か月は、遅霜さえ過ぎれば穏やかな時期です。連休まであと少し。落ち着きませんが、そのあとは少しだけ余裕が出来るでしょう。わずかな余裕ですが、贅を探してみてはいかがでしょうか。

 最後に野菜の病気について勉強の話題を付け加えます。同じ仲間の野菜は、たいてい同じ病気に罹り同じ害虫に狙われます。モンシロチョウの幼虫(アオムシ)がキャベツやブロッコリーの葉を食べているのはそのためです。時にダイコンやチンゲンサイも食べられます。でも、好みはキャベツ・ブロッコリーのようです。これらはいずれもアブラナの仲間です。ですからレタス(菊の仲間)を食べることはありません。関連して、これからの季節に気になるのは、トマトとジャガイモの関係です。これらは同じ病気に罹ります。ところが、トマトはジャガイモに比べて大変病気に弱いのです。ジャガイモは強いので病気に感染していても発病しません。それが困り物なのです。皆さんは、気が付かないうちに、ジャガイモの病気をトマトにうつしているのです。これからの時期、ジャガイモの草取りや芽欠きをした手で、トマトの苗をさわったり、トマトの芽欠きをしてはいませんか? それでは傷口をつけて感染させているようなものです。2つの作業を行う時は、トマトの仕事から行ってください。反対の時は一風呂浴びてから、とまではいいませんがよく手を洗ってから行ってください。
 また、トマト栽培をハウスで行うのは、土の中にいる細菌を泥の雨水とともに葉に跳ね返さないためです。ハウスがなければ、トマトの株元にワラを敷いても同様の効果があります(泥水が直に跳ね返りませんから)。そのためには、ワラである必要はありません。ススキでもカヤでもかまいません。草でもよいのですが、乾燥すると風で飛ばされますので工夫して下さい。ダンボールでもかまいませんが、見た目がちょっと気になります。くれぐれも、泥水防止の資材が風に飛ばされないようにと土で押さえないように(笑い)。 


[斎藤典保]