畑から(畑の露地裏)   10

’03.02.20
 

畑の露地裏 C              

いよいよ春作本番

 3年目を迎え、利用者の気持ちも落ち着いてきたようだ。昨年は、1月の寒中にジャガイモを植える相談を受けたのに。それも1人ではなかった。また都合2年がかりで、やっとタネの一袋蒔きを止めさせ、間引き作業の大変さを理解していただけたような気がする。これで4月の1日にトマトの苗を買って来なければ良しとしよう。

 こうしてみると、体験するということが、いかに大事なことであるかがわかる。自分勝手にやっていたらわからないことも、体系的にまとめられた中でかつ、まわりを意識しながら行うことで、画期的に効果をあげるのだ。定年まぎわの、立場のある方達をつかまえて、あれこれ冷やかす私も意地が悪い。でもこのような競争を生む指導をすぐに受け入れられる皆さんは、会社生活をとても素直に過ごしてこられた証拠。誉めていいのかどうかわかりませんが、あまり受身にならず、少しはスリリングなやり取りを期待しています。かといって、暴力的になったり、書物などからの情報で頭でっかちにはならないで下さい。一昨年の講習会で、トウモロコシの一番花の位置に関する突っ込みを受けた時は、正直言ってドキッとしました。一番花は必ず下の方が先であると信じ込んでいた私に、「上から花粉が落ちるのだから、先に実る花は茎の上の方だ」と解かれたときには、シャッポを脱ぎました。本当は、そのようなやりとりが好きなのです。

 春一番は、ジャガイモからというのが一番無難なところ。でも関東の南部なら春蒔き専用のタネを使えば大根などが植えられます。だたし、マルチ、トンネルなど簡単な防寒具が必要です。ここ笠間クラインガルテンでは、一つだけ邪道な栽培を指導しています。先月号に書いた春蒔きの大根の話。タネの中に春蒔きと秋蒔きがあるのは、その植物の品種が低温を感じて花の芽を形成する仕組みに決まりがあるからです。大根の場合、種蒔き後およそ2週間、夜の温度がどれだけ下がっても、翌朝日が照っておよそ23℃以上になると、昨晩の冷え込みを忘れてしまうという、ドジ(いや、おおらか)な性格の品種があります。その2 週間を過ぎると、その後の気候には関係なく、花(生殖生長)を形成せず、大根が生長(栄養生長)します。秋蒔きの品種では夜の冷え込みをよく覚えていて、大根は大きさに関係なく暖かくなれば根が小根であろうと中根であろうと花が咲きます。このような冬の寒さを感じる性質を低温感受性といい、上述の品種は低温感受性が鈍い品種と呼ばれます。そのような言葉がタネの袋の裏側に書いてあります。また、低温伸長性があるというのも同義語と思ってください。それらをまとめて、「春蒔き専用」としてあるものもあります。春蒔き大根のタネを捜す時はそのようなことに気をつけてお買い求め下さい。このような理由で去年の秋のタネは使えません。春の余りものを秋に使用することは可能ですが、反対はできません。もっとも去年の秋の残りは、今年の秋に使えばいいのです。家庭用の冷蔵庫に保存すれば、1年程度は十分に発芽します。

 さて、その品種を使った邪道な栽培とは、大根の苗作りです。こんなやり方は、どこを捜してもやっているところはないので、邪道とへりくだりました。根菜を植え替えることなど、普通ではありませんから。具体的な方法は、新聞紙を丸めて10cm 程度の円錐状の筒を作ります。その中に土を入れタネをまきます。そして、室内で管理します。ただし、日中は窓辺や日の当たる車の中などに入れておきます。つまり23℃以上にするためです。このように管理した苗は、念のため簡易ハウスの中に新聞紙ポットのまま定植します。ハウスに直接蒔くのが一般的ですが、もし天候の良くない日が続くと失敗になります。でも苗なら温度管理が人為的に可能です。このような管理栽培のため、春に行わずに冬晴れの続く1、2月に行います。そして選ぶ品種は、青首大根。なぜなら新聞紙の中で10cmほど生育し、筒の上にさらに10cm程度青首が伸びますから、合計20cmの可食部分ができるのです。皆が種蒔きを始める頃に、おいしい大根が収穫できます。詳細は、後述の今月の『畑自慢』を参照のこと。

 上述で、くりかえし出てきた「品種」、「生長」という言葉については、機会を改めて説明します。このような話をすると少しは“アカデミック”な講習に聞こえるでしょう。私の話はどうも“馬鹿デミック”に聞こえるらしいので、ここで弁解しておきます。

 そうそう、初心者の場合、春仕事の基本は決して焦らないこと。「となり百姓」を決め込んでください。近所の名人が仕事をするのを見て、真似していればいいのです。カンニングを奨励します。ただし、名人のカンニングをすること。市民農園などのあまり名人が居そうにないところでキョロキョロしないこと。近所の畑で鍬を振るう年寄りを参考にして下さい。

[斎藤典保]